1. AIで文書を作ると「惜しい」と感じる理由
Geminiで情報提供書を作ってみると、
「言いたいことは近いけど、ちょっと違う」
「文面はきれいだけど、医師に伝えたい核心が抜けている」
ということはありませんか?
それは、AIが医学的に正しい情報を並べるだけだからです。
文書に“意図”や“文脈”を吹き込むのは、薬剤師の役割。
つまり、AIは完成品を作るものではなく、下書きを共作するパートナーです。
2. 情報提供書をAIで作る前に準備する3つの情報
AIに入力する前に、次の3項目を整理しておきましょう。
これは「人間の脳内設計図」をAIに共有するイメージです。
| 項目 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| ① 背景 | どんな状況か | 骨粗鬆症の治療中、倦怠感を訴えた患者 |
| ② 目的 | なぜ情報提供するか | 副作用の可能性を相談するため |
| ③ 要点 | 伝えたいポイント | 開始薬、症状出現時期、対応経過 |
3. 実際のGemini入力例と出力結果
💬 入力例(薬剤師の質問)
骨粗鬆症治療薬アレンドロン酸を服用中の患者で、倦怠感と食欲低下を訴えています。
医師に情報提供を行いたいです。
薬剤師として中立的に、発現経過と対応内容を整理した文書を作成してください。
文章は200〜300文字程度、医療文書として丁寧な表現にしてください。
💡 Geminiの出力結果(例)
情報提供書(案)
貴院にてアレンドロン酸を処方中の患者様より、服用開始約2週間後から倦怠感および食欲低下の訴えがありました。服薬状況および他剤との併用に特段の変更はなく、服薬中断により症状の軽減を確認しております。
現在は服薬再開可否について検討中です。副作用の可能性も含め、ご意見を賜りたく情報提供いたします。薬局:〇〇薬局
薬剤師:〇〇
4. 出力を「現場仕様」に整える修正ポイント
Geminiの出力はとても自然ですが、そのまま提出するのは少し“教科書的”。
ここに薬局現場の温度感を足していきます。
| 修正ポイント | 理由 | 修正例 |
|---|---|---|
| 「服用開始約2週間後から」→「服薬開始2週間後より」 | 医療文書らしい言い回しに | より簡潔・実務的 |
| 「服薬再開可否について検討中」→「服薬再開の可否についてご相談申し上げます」 | 医師への敬意を表現 | 文調を整える |
| 「副作用の可能性も含め」→「副作用の可能性を否定できず」 | 臨床的により慎重な表現 | 専門的表現に |
🧾 修正後の完成形(提出用)
貴院にてアレンドロン酸を処方中の患者様において、服薬開始2週間後より倦怠感および食欲低下の訴えがありました。服薬中断により症状の軽減を確認しており、服薬再開の可否についてご相談申し上げます。副作用の可能性を否定できず、今後の対応についてご教示賜りたく情報提供いたします。
薬局:〇〇薬局
薬剤師:〇〇
5. Gemini出力をブラッシュアップする追加質問例
1回の出力で完璧に仕上げる必要はありません。
質問を重ねることで、精度は上がっていきます。
例)
「もう少し簡潔に、100〜150文字にまとめてください」
「服薬再開可否の相談文を、より柔らかい表現に変えてください」
「服薬中断の経緯を箇条書きにして、最後にまとめ文を入れてください」
このように“追加質問”を繰り返すことで、
AIを薬局の編集アシスタントとして活用できるようになります。
6. より実務に即した応用アイデア
| 活用場面 | Geminiへの指示例 | 出力の活用法 |
|---|---|---|
| 副作用報告書 | 「副作用疑い症例報告書の形式にしてください」 | 添付文書案として使用 |
| 服薬フォロー報告 | 「フォローアップ内容を要約し、医師宛にまとめてください」 | 外来連携ツールに貼付 |
| 在宅訪問報告 | 「在宅患者訪問薬剤管理指導の報告書形式で」 | 居宅療養計画書の補足資料に活用 |
7. まとめ:AIは「薬剤師の文章筋トレ」
Geminiを使うことで、
「どう伝えれば医師に伝わるか?」を常に考える習慣が身につきます。
AIは、薬剤師の文章力を“奪う”のではなく、
文章の構造化思考を鍛えるトレーニングツールです。
- 初級では「AIにどう聞くか」
- 中級では「AIの出力をどう整えるか」
- 次の上級では「その流れをチームで再現する仕組み」
この流れを押さえることで、
AIは単なるツールから「業務の一部」に変わります。
🪄 次回予告(上級編)
次回は「AIが自走する薬局文書システム」。
GoogleスプレッドシートやGeminiを組み合わせて、
**“誰が入力しても同品質の情報提供書が作れる仕組み”**を設計します。

